あの訪問が近づくと、気が重い。そう思う自分は介護に向いていないのだろうか。気持ちだけで適性を決めず、何がつらいのか、どんな条件なら丁寧に関われるのかを一緒に整理します。

この記事で確かめたいこと
- 苦手な気持ちと、実際の接し方を分けて考える。
- 出来事・負担・希望を具体的にして相談する。
- 好きになる努力だけに頼らず、支援と勤務の条件を整える。
読みたいところから開く
好きになれない気持ちだけで、向き不向きを決めない
予定表に、その利用者さんの名前がある。ほかの訪問より少し気持ちが重くなる。嫌なことをされたと言い切れるわけではないけれど、会話のテンポが合わず、何を言われるか気になる。
そんな自分に「介護の仕事を選んだのに」とがっかりすることはないでしょうか。
利用者さんを好きになれない。その気持ちを持っただけで、介護に向いていないと決める必要はありません。一方で、苦手だから説明を省く、要望を聞かない、雑に接するという行動まで仕方ないことにはできません。
気持ちがあることと、支援をどう行うかを分けて考える。 そこからなら、自分を責め続ける以外の方法を探せます。
この記事では、相性の違いや関わりの負担を、ヘルパーと事業所がどう整理するかを考えます。会話や場面は説明のための想定例です。はる本人や実在の利用者さんの体験として紹介するものではありません。
また、暴力や性的な言動など安全に関わる問題は、単なる好き嫌いとして扱わないことを前提にします。
全員に同じ親しさを感じなくてもよい
話しやすい人もいれば、間の取り方に迷う人もいます。長く働いていても、初めて出会う生活習慣や考え方はあります。自分にとって親しみやすい相手だけに出会う仕事ではないからこそ、親しさだけに頼らず、必要な確認と丁寧な対応を続けられる方法が大切になります。
日本介護福祉士会の倫理綱領・行動規範は、利用者の尊厳や意思を尊重する姿勢を示しています。これは、職員が全員に同じ好意を持たなければならないという話とは分けて考えられます。
自分と価値観が違っても、相手の生活を一方的に評価せず、支援に必要なことを確認する姿勢が土台です。日本介護福祉士会の倫理綱領
「嫌い」と口にする前の、小さな違和感を見る
苦手という言葉は広く、疲れ、不安、技術への自信のなさ、傷ついた気持ちが混ざっていることがあります。自分でも整理できないまま嫌いとまとめると、相手の全部がつらく見えてしまうことがあります。
まずは「どの時間が一番しんどいか」と、場面を小さくします。
玄関での挨拶なのか、調理の確認なのか、帰り際の追加の相談なのか。嫌だと思った瞬間まで戻ると、仕事の順序や説明方法を変えられる余地が見えることがあります。
好きになる努力を先に課すより、困っている場面を具体的にする方が、事業所にも相談しやすくなります。
苦手の中身を、出来事・負担・希望に分ける
「あの人は難しいです」と伝えても、責任者には何を手伝えばよいか分かりにくいものです。反対に、すべてを細かく説明しようとして疲れてしまうこともあります。
まず一つ、最近つらかった場面を選び、起きたこと、自分への影響、変えてほしい条件の三つに分けてみます。
言われたことと、受け取った意味を区別する
本人は急いでいたのかもしれませんし、実際に説明の不足があったのかもしれません。今の情報だけで理由を一つに決めず、確認する余地を残します。「そう受け取ってつらかった」という職員の気持ちも、そのまま相談して構いません。
事実を整理することは、感情をなかったことにする作業ではありません。
| 分けてみる項目 | 相談に使える想定例 |
|---|---|
| 出来事 | 調理中、以前の担当者との違いを何度も指摘された。 |
| 負担 | 確認のたびに手が止まり、終了時刻が気になった。 |
| 自分の反応 | 返事が短くなった。次の訪問でも身構えている。 |
| 相談したいこと | 好みの確認を始めにまとめ、手順をそろえたい。 |
自分の疲れも、確認する材料にする
同じ言葉でも、余裕がある日と移動が続いた日では受け止め方が違うことがあります。休憩を取れているか、時間に追われていないか、前の訪問の緊張が残っていないかも振り返ります。
これは「疲れていたあなたが悪い」という意味ではなく、勤務の組み方を含めて変えられる条件を探すためです。
苦手な訪問の前後に難しい支援が重なっているなら、その日の負担全体を責任者と見ます。訪問だけを切り取ると相性の問題に見えても、移動や記録の時間が足りず、毎回焦っていることが関係しているかもしれません。
一度に全部を解決しようとせず、まず変えられる一つを決めます。
苦手な場面がない時間にも目を向ける
訪問全体がつらく感じる時でも、細かく見ると、洗濯中は落ち着いていて、献立を決める時だけ緊張するという違いがあるかもしれません。負担が小さい場面と大きい場面を比べると、会話の量ではなく、選択肢が曖昧なことが困りごとだと分かる場合があります。
相手の性格を変えようとするより、確認の仕方を試しやすくなります。
自分の価値観で、暮らしを採点しない
年齢、性別、病名、暮らし方などを理由に「ああいう人は苦手」とまとめると、実際に確かめるべき希望が見えにくくなります。自分に思い込みがなかったかを振り返りつつ、目の前で起きたやり取りに戻ります。
相手の生活を自分の好みに近づけることが、支援の目的ではありません。
好きになろうとするより、支援の型を整える
毎回気持ちを奮い立たせて明るく接しようとすると、訪問前から疲れてしまうかもしれません。必要なのは、無理に親密になることではなく、本人が見通しを持てて、職員も確認を進められる関わり方です。
挨拶、今日の予定、希望の確認、終了時の報告など、基本の流れをそろえる方法があります。
最初の確認を具体的にする
「今日はどうしますか」と広く聞くと、何を答えればよいか互いに迷うことがあります。計画された支援の範囲で「先に洗濯を始め、その後に調理でよいですか」と確認すると、本人も修正したい点を伝えやすくなります。
職員だけで段取りを決めるのでなく、説明して確かめる手順を短く用意します。
毎回の言葉を完全に台本化する必要はありません。ただ、苦手だから早く終えたいという気持ちで確認を飛ばすと、後から違いを指摘され、さらに苦手意識が強まることがあります。短い確認を省かない方が、結果として互いの負担を減らせるかを試します。
雑談を盛り上げ続けなくても、関心は示せる
会話が途切れると悪いと思い、話題を探し続ける人もいます。けれど、相手が求めているのは長い雑談ではなく、作業前の説明や落ち着いた声かけかもしれません。
沈黙をすべて埋めるより、必要な確認を丁寧にし、本人が話した時に聞ける余地を残す方法もあります。
私生活の質問に答え続けることで関係を保とうとしなくても構いません。「私のことはこのくらいにして、今日の準備を進めますね」と戻す言葉を事業所で共有しておくと、職員ごとの差も小さくできます。
個人的な話をする量と、支援への誠実さは同じではありません。
返事と態度は、自分で点検できる形にする
苦手な気持ちがあっても、名前を呼んで説明する、返答を待つ、本人が選べる部分を確かめるなど、実際の行動は見直せます。逆に「気持ちは大切にしています」と思っていても、ため息や急かす言葉が増えているなら、負担が支援に出始めている可能性があります。
その時は、気合いで隠すより相談します。「最近、返事を待つ余裕がなくなっている」と言えることは、支援を守るための情報です。優しい気持ちを保てたかだけでなく、丁寧に対応できる条件があるかを確かめます。
必要なら同行でやり取りを見てもらい、具体的な助言を受けます。
相談は悪口にせず、改善したい条件を伝える
気持ちを誰かに聞いてほしいことはあります。ただ、職員同士で「あの人はいつもそう」と話が固まると、次に担当する人まで身構え、本人の説明を聞きにくくなることがあります。
つらさを出せる場所は必要ですが、支援の共有では人物への評価と出来事を分けたいところです。
「担当を外してほしい」の前後も話してよい
限界が近い時には、先に担当の調整を希望して構いません。全ての工夫を試してからでなければ言ってはいけない、ということではありません。そのうえで事業所が、どの場面が負担か、どの程度勤務に影響しているか、本人は何を希望しているかを確認します。
希望がまだ決まらない時は「どうしたいか分からないけれど、このままはつらい」でも十分です。相談者に解決案まで用意させると、話せなくなることがあります。責任者と一緒に選択肢を整理し、まず何を試し、いつ振り返るかを決めます。
管理者は「向いていない」で話を閉じない
職員が苦手を話した時、「介護はそういう仕事」「みんな我慢している」と返すと、次は限界になるまで黙ってしまうかもしれません。逆に、すぐに本人側に問題があると決めることも避けます。
何が起きていて、支援のどこが進みにくいのかを聞くことから始めます。
同行、手順の整理、訪問時間の調整、担当の組合せなど、事業所が検討できることを並べます。本人の希望や契約・計画との関係も確認する必要があり、職員の希望どおりにすべて変えられるとは限りません。
それでも「変えられない」で終えず、できる対応と難しい理由を説明します。
助言をもらった後に、試せたかまで振り返る
「もう少しゆっくり話して」と助言されても、終了時刻が迫る状況では実行しづらいことがあります。助言の内容だけでなく、試す時間や手順があるかを確かめます。実行できなかった時も、職員の意欲が足りないと決めず、どこで難しくなったかを聞きます。
必要なら支援全体の配分を責任者と見直します。
振り返る日は先に決めておくと、職員が再び相談を切り出す負担を減らせます。「次の二回の訪問後に様子を聞く」といった区切りは一つの例です。危険や強い負担がある時は、その日まで待つ必要はありません。
途中でも連絡してよいことを伝え、試すことが新たな我慢の期間にならないようにします。
本人にも「確認の仕方を変えてみて、分かりにくいところはありませんか」と聞きます。職員が楽になったかだけでなく、本人が希望を伝えられているかを合わせて見ます。両方を聞くことで、対応を一方の都合だけに寄せずに調整できます。
本人への説明は、支援の相談として整える
「担当があなたを苦手だと言っている」と伝えれば、傷つきや不信につながります。本人へ確認するのは、困った場面で何を希望していたか、支援の進め方で不安があるかなど、調整に必要な内容です。職員の感情を伝言することが、話合いの目的ではありません。
例えば「調理の途中で確認が重なっているので、最初に好みを整理したい」と、支援方法の相談として説明します。本人から見れば、職員の説明が足りず何度も確認していた可能性もあります。
双方の話を聞き、実際に変える内容をそろえることが、責任者の役割です。
相性の調整で済ませてはいけない問題もある
苦手という相談の中に、怒鳴られる、身体を触られる、物を投げられる、差別的な言葉を繰り返されるなどの出来事が含まれている場合があります。その時に「あなたと相性が悪いだけ」とまとめると、安全の問題を見落とします。
何が起きたかを確かめ、必要な対応を別に進めます。
我慢の程度を、職員同士で比べない
ある職員が平気だと言っても、別の職員も平気でなければならないわけではありません。訪問時刻、支援内容、二人の位置関係、相手の状態が違うこともあります。「私は言われたことがない」という情報は参考になりますが、相談を否定する材料にはしません。
性的な言動や危険を感じる出来事については、性的な冗談や接触がつらい時の対応でも整理しています。苦手意識の解消を目指すより先に、次の訪問を安全に行えるかを事業所で確認する必要があります。
職員自身の不適切な対応は、曖昧にしない
必要な声かけを意図的に省いた、本人を侮辱した、危険な扱いをしたなどの事実があれば、その対応は確認して改める必要があります。苦手だったという説明だけで済ませないことが大切です。
事業所は本人の安全を確かめるとともに、職員の状況を聞き、必要な指導や担当体制の見直しを行います。本人を守ることと、職員が相談できることを対立させず、行動の問題を具体的に扱います。
支援を続けるのが難しい状態なら、同じ配置を続けることを当然にしないでください。
担当変更は、失敗の判定にしない
調整しても負担が減らず、担当の変更や分担を検討することもあります。それだけで職員の能力や利用者の人柄が決まるわけではありません。どの組合せなら安全で落ち着いた支援ができるかを考え、引継ぎでは役立つ情報を残します。
「気難しい人」という評価より、「説明を終える前に作業を始めると不安を話される」「先に順序を確認すると進めやすい」と記載した方が、次の担当者は準備できます。
変更後も本人と職員の双方に様子を聞き、問題が別の人へ移っただけになっていないかを確かめます。
自分を責め続けるより、続けられる関わりを探す
苦手な訪問のあと、帰宅してからも会話を何度も思い返してしまうことがあります。もっと上手に返せたのでは、あの表情を見られたのでは、と考えても答えが出ない時は、次に確認することを一つ書き留め、仕事の時間に相談する形にしてみます。
頭の中だけで解決し続ける必要はありません。
振り返りは、自分への採点だけにしない
その日の振り返りで、うまく話せなかった点だけを数えると、苦手意識が大きくなります。予定した支援を確認できた、迷った時に聞き直せた、困りごとを記録に残せたなど、できた行動も確かめます。好きになれたかどうかだけを、仕事の成果にしないことです。
この程度でも、次の行動につながる記録になります。気持ちを書いた個人のメモに利用者の情報を不用意に残さず、支援に必要な内容は事業所の決めた記録先で扱います。
相談後にどう変わったかも残すと、自分一人の努力ではなく、チームで調整した経過を確認できます。
休むことや相談することを、適性の結論にしない
眠れない、休日も仕事の場面から離れられないなど、日常への影響が続く時は、勤務の調整や専門の相談先を利用することも考えてください。ここで無理をすれば適性が証明されるわけではありません。
厚生労働省「こころの耳」には、働く人が利用できる相談窓口の案内があります。仕事のストレスについての相談先
特定の訪問がつらいのか、仕事全体に余裕がないのか、今は判断できないこともあります。すぐに辞めるか続けるかを決める前に、負担を減らした状態で考える余地を持ちたいところです。
もちろん、安全や健康への影響がある時は、その対応を先延ばしにする必要はありません。
好きになれなくても、相手を大切にする行動は選べる
親しさを感じなくても、説明する、意思を確かめる、必要な支援を丁寧に行うことはできます。
利用者さんへの敬意と、働く自分への配慮を、どちらか一つにしなくてよいと思います。
「私は向いていない」で終わらせる前に、何がつらく、何なら変えられるかを一緒に考える。事業所がその相談を受け止めることで、職員も利用者さんも、必要以上に傷つかずに関わり方を見直せます。
好きという気持ちに頼り切らず、安心して支援できる条件を整えていきたいものです。
参考資料
資料確認日:2026年10月13日。場面・会話・振り返りの例は編集上の提案です。個別の職員の適性や心身の状態を判定するものではありません。
