取っていない。それでも、疑われた言葉が頭から離れない。利用者さんの不安を受け止めながら、職員を犯人として扱わず、誰が確認し、どう説明し、次の訪問を支えるかを考えます。

この記事で確かめたいこと
- 不足の訴えと盗難の断定を分け、まず安全と事実を確認する。
- 認知症や職員の人柄だけで結論を決めない。
- 確認結果の説明と次回の体制まで、事業所が引き受ける。
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「お金がない」と言われた瞬間、職員も傷つく
買い物を終えてお釣りを返した。その後で「お金が足りない」「あなたが持っていったのでは」と言われる。自分は取っていないと分かっていても、動揺します。何と返せば疑いが深まらないのか、次もこの家へ来られるのか。
仕事中の出来事が、帰宅してからも頭に残るかもしれません。
利用者さんにとっても、お金が見当たらないことは不安です。必要な買い物ができるか、誰かに取られたのか、自分の記憶が間違っているのか。落ち着かない気持ちの中で、最後にお金を扱った職員へ言葉が向くことも考えられます。
その時に、職員へ「そういうこともあるから気にしないで」と言うだけでは足りません。一方、本人の訴えを最初から勘違いと決めつけても、必要な確認を逃します。
利用者さんの不安を受け止めることと、職員を犯人として扱わないことを、同時に進める必要があります。
不足と盗難は、同じ意味ではない
「財布の中身が思ったより少ない」「置いた場所にない」「買い物の精算が合わない」「誰かが持ち出したところを見た」では、確認することが異なります。最初の言葉を、そのまま盗難が起きたという結論に変えないようにします。
職員にも、まず何と言われ、いつ、どのお金を扱ったかを聞きます。「疑われた」という気持ちは大切にしながら、出来事の順番を整理します。本人の説明と職員の説明が異なる時も、その違いを消さず、未確認として残します。
この記事の会話や記録は、説明のための想定例です。はるの事業所で実際に起きた事件として紹介するものではありません。盗難の有無や責任を記事の手順だけで判断することもできません。現場での初動と、事業所が引き受ける確認・説明を考えます。
その場で争わず、事実を認める言葉にも置き換えない
突然疑われると、「そんなことをするはずがありません」と強く返したくなります。職員が否定したい気持ちは当然です。ただ、玄関先や利用者宅で長く言い争っても、金額や経緯が整理されないまま感情が強くなることがあります。
まず「見当たらず、ご心配なのですね。いつ、どこで確認されたお金か教えてください。事業所にも連絡して確認します」と、不安と確認の必要を伝えます。していないことを「取ってしまってすみません」と認める必要はありません。
不安への配慮と、行為を認める謝罪は別です。
本人が「今すぐ返して」と繰り返しても、自分のお金で穴埋めして終わらせようとしないことが大切です。不足の原因が分からないまま精算の記録が変わり、後の確認が難しくなります。支払いや補償を、その場の職員が個人で約束することも避けます。
荷物を見せれば済む、とは限らない
潔白を示したくて、鞄や財布を全部広げる職員もいるかもしれません。しかし、一度見せれば納得してもらえるとは限らず、その後も毎回求められる可能性があります。職員の私物には他の訪問先の情報や個人的な物もあります。
私物の確認を求められた時は、その場で当然の対応とせず、責任者へ連絡して対応を相談します。荷物を取り上げられる、退室を妨げられる、威圧されるなど安全の問題がある場合は、事前の緊急時手順に沿って安全を確保します。
差し迫った危険があれば、警察等への緊急連絡が必要になることもあります。
一人で長く探し続けない
本人の了解なく引き出しを開けたり、家の中を広く探し回ったりすると、別の疑いにつながる場合があります。確認してよい場所と方法を本人に聞き、支援時間や次の訪問への影響も事業所へ伝えます。
予定を超えて一人で解決するまで帰れない形にしないようにします。
事業所は、金額・時刻・受け渡しを順に確認する
連絡を受けた責任者は、「とにかく謝って」「家族に任せて」と返す前に、職員が安全に話せる状況かを確かめます。その上で、本人や家族の訴えと、職員が行ったことを別々に聞きます。複数の人の話を、最初から一つの筋書きにまとめないことが重要です。
| 項目 | 確かめたいこと |
|---|---|
| 対象のお金 | どこにあった、いくらのお金か。金額が確認できているか、本人の記憶によるものか。 |
| 預かりと返却 | 職員が預かった額、支払額、釣銭、返した時刻と場所、同席者。 |
| 残っている資料 | レシート、買い物メモ、金銭出納の記録、当日の支援記録。 |
| その後の経過 | 最後に確認した時から訴えまでの出来事。分からない部分は未確認とする。 |
買い物代金が関わるなら、預かった額から支払額を差し引いた金額と、返した釣銭が合うかを確認します。合っていたとしても、それだけで家の中の別のお金の状況まで証明できるわけではありません。今回確認できた範囲と、分からない範囲を分けて説明します。
記録の不足を、後からなかったことにしない
職員が返却額を書き忘れていた場合、思い出した内容は、その時点での追加の説明として残します。最初から書いてあったように記録を整えたり、都合の悪い部分を消したりすると、経過が分からなくなります。
訂正や追記は事業所の手順に沿って、元の記録との関係が分かる形で行います。
レシートがない、財布の残高を共有していない、受け渡しの場所が毎回違う。そうした運用の弱さが見えたら、職員一人の注意不足だけで終わらせません。誰が担当しても確認できる方法になっていたかを見直します。
カメラ映像や他の人の説明も、扱いを決める
映像や同席者の説明がある場合も、必要な範囲で確認します。映像を職員個人の端末へ転送したり、関係のない職員に広く見せたりする必要はありません。何を確かめるための情報かを明確にし、事業所の管理下で扱います。
本人が警察へ相談したいと話す場合、それを事業所の都合で思いとどまらせることは避けます。事業所だけで犯罪の有無を結論づけず、必要に応じて関係機関や専門家へ相談します。職員が一人で事情説明や対応を抱える形にもせず、窓口を定めます。
確認の窓口を一人に決め、聞き直しを減らす
管理者、サービス提供責任者、家族から別々に同じ質問をされると、職員も本人も疲れてしまいます。話すたびに表現が少し違うことを、すぐに矛盾と扱うのも慎重でありたいところです。主な窓口を決め、最初の報告を共有し、不足している点を追加で確かめます。
窓口を一本化しても、本人と職員の話を一緒に聞けばよいという意味ではありません。互いを前にすると話しにくい内容もあるため、落ち着いて説明できる場を考えます。聞き取った内容を、誰がどの目的で共有するかも明確にします。
確認の間に次の訪問が来る場合には、誰が行くのか、金銭を扱う支援をどうするかを決めます。職員が怖いと言っているのに、結論が出るまでは通常どおりと機械的に戻すことは避けたいところです。
必要な支援を途切れさせない方法と、職員の安全を合わせて相談します。
認知症と決めつけず、不安や変化も確かめる
お金が見つからないという訴えを聞いて、すぐに「認知症だから」と扱うのは避けたいところです。実際の置き忘れ、家族による移動、買い物の精算の行き違い、その他の出来事があるかもしれません。
診断のある人でも、今回の訴えの原因まで一つに決まるわけではありません。
国立長寿医療研究センターの精神科部の案内では、認知症に伴う症状の一つとして物取られ妄想が挙げられています。ただし、職員が現場でその症状だと診断するための資料ではありません。心配な変化がある場合に、医療職への相談を考える材料です。
気持ちを受け止めても、犯人探しには同調しない
「なくなって心配なのですね」と伝えることと、「あの人が取ったのですね」と同意することは違います。本人の不安は受け止め、誰が取ったかという未確認の話には乗らず、確認できることへ戻します。
家族や別の職員へ疑いを向けて、場を収めることもしないようにします。
いつもと違う様子も、具体的に共有する
訴えが急に増えた、眠れていないと話している、普段と違って強く混乱している。そうした変化があるなら、お金の確認とは別に、ケアマネジャーや医療職へ必要な情報を共有します。「妄想がひどい」と一語でまとめるより、日時、発言、様子を伝えます。
本人が安心するための対応が必要だからといって、職員が傷ついていないことにはなりません。背景を理解することと、同じ職員に繰り返し耐えてもらうことを結びつけないようにします。必要なら同行や担当の組み方を含め、支援体制を調整します。
職員を守るのは、確認後の説明と次回の体制
確認の結果、別の場所でお金が見つかったり、精算の行き違いが分かったりすることがあります。その時に「見つかったからよかったね」で終わると、疑われた職員の気持ちだけが残ります。誰から、どこまで説明を戻すかも、事業所の仕事です。
家族にも疑いが伝わっていたなら、必要な範囲で確認結果を伝えます。事業所内で共有した人にも、結論や未確認の部分を戻します。最初の疑いだけが残り、その後の訂正が届かない状況を作らないことが大切です。
「また行ける?」の前に、変えることを示す
職員へ次回の訪問を確認する時は、「仕事だから」「人がいないから」とだけ言わず、事業所が何をしたかを伝えます。本人・家族への説明、金銭の受け渡し方法、同行の有無、困った時の連絡先。
前回と何が違うかが見えなければ、同じ不安を抱えて向かうことになります。
職員が行けると答えても、負担がなくなったとは限りません。訪問後に短く話す時間を作り、同じ発言があったか、金銭を扱う場面で何に困ったかを聞きます。本人を刺激しないようにと、職員が何も報告しなくなることにも注意したいところです。
事実が分からないままでも、支えは決められる
すべてが明らかになるとは限りません。資料がなく、金額もはっきりしない場合には、「盗難はなかった」とも「職員が関与した」とも言えないことがあります。未確認の点を残した上で、今後の金銭の扱いと連絡の窓口を整えます。
事業所は、根拠のない断定から職員を守り、本人の訴えにも必要な確認を続けます。確認が終わっていないことを理由に、職員をいつまでも一人で疑いに向き合わせないようにします。
威圧的な言動等が続くなら、厚生労働省の介護現場におけるハラスメント対策も参照し、組織として相談・対応を進めます。
家族への返答も、確認できた範囲にとどめる
「この職員は長く働いているから絶対にありません」と、人柄だけを根拠に返すと、家族は訴えを聞いてもらえなかったと感じるかもしれません。
「当日の預かり額とレシート、返却額は一致しています。財布全体の残高については確認できていません」と、事実と限界を分けて伝えます。
家族から職員の個人情報や自宅の事情を求められても、金銭確認に必要な情報とは分けて扱います。本人の不安を解消するためなら何でも開示してよいわけではありません。
答えられる内容と、事業所として確認する内容を説明し、個人へ連絡を取らせる形にしないようにします。
確認結果に納得が得られない場合も、同じ職員に何度も説明させるより、責任者が追加で確認する点と返答の方法を整理します。分からない部分まで言い切って早く終わらせようとせず、必要なら外部の相談先も含めて対応を検討します。
金銭の扱いを、職員の記憶と善意に頼らない
次の対策は、職員を疑うための仕組みではなく、本人と職員の双方が確かめられる仕組みにします。預かった金額、支払い、釣銭、レシート、返却先が追えること。本人が確認しやすい方法になっていること。担当が替わっても同じ手順が伝わることが基本です。
家族への確認も、本人を置き去りにしない
家族が金銭を管理している場合は、職員がどこからいくら預かり、誰へ返すのかを事前に確認します。家族に聞けば済むとして、本人への説明を省くことは避けます。本人の希望と管理方法に行き違いがあれば、ケアマネジャー等を含めて整理します。
自分の財布と利用者さんのお金を混ぜない、個人的な立て替えで曖昧にしない、記録を後回しにしすぎない。日々の小さな手順が、後から確認できる情報になります。細かな方法は、事業所の方針と支援計画に沿って統一します。
記録を増やすだけで終わらせない
確認のたびに書類が増え、支援時間を圧迫しているなら、同じ情報を何度も書いていないかを見直します。必要な項目をそろえ、どこを見れば分かるかを明確にする方が、書類の枚数を増やすより役立つことがあります。
担当交代の日ほど、いつもの方法を言葉にする
いつも担当する職員は、財布の場所や釣銭を置く位置を知っていても、代わりに入る職員には分かりません。「いつものところへ返して」と言われて迷い、本人に何度も聞くことを遠慮してしまう場合もあります。
初めての人が確認できる手順になっているかを、同行や引き継ぎで確かめます。
金銭の手順には、置き場所だけでなく、変更を頼まれた時の連絡先も含めます。本人からいつもと違う額を預けられた、家族から聞いていた場所にお金がない、といった場面で、その人の判断だけで帳尻を合わせないようにします。
予定外の立て替えや貸し借りを個人で引き受けないことも共有します。
訪問後に残高の話を家族から聞かれた時、記録が事業所にまとまっていれば、休日の職員へすぐ電話をしなくても確認できることがあります。金銭の記録は、疑いへの備えだけでなく、担当者の記憶に頼った時間外対応を減らすためにも役立ちます。
再発防止を、本人への罰のように伝えない
「疑ったので、これからは全部確認します」という言い方では、本人を責める話に聞こえます。「行き違いが起きないように、預かる時と返す時の金額を一緒に確かめる方法にします」と、双方が確認できる目的を伝えます。
これまで説明が十分でなかった部分があれば、事業所側も見直します。
一度の出来事を理由に、本人の訴えは信用しないと申し送りしてしまうのも避けます。次に不足が起きた時は、その時の事実を確認する必要があります。同じような言葉が出たとしても、毎回原因が同じとは限りません。
過去の経過は参考にしつつ、現在の状況を確かめます。
職員側にも、報告したことで自分が疑われ続ける仕組みではないと伝えます。早く相談したから記録が残り、確認につながったという経験があれば、小さな行き違いも隠さずに伝えやすくなります。
仕組みを変えた後は、本人の不安と職員の負担が実際に減ったかを振り返ります。
買い物の具体的な迷いは買い物支援の記事でも扱っています。また、今回の訴えに限らず、確認と返答の窓口を整理したい時はクレーム対応の記事も参考にしてください。
金銭の確認が終わった後も、職員が「また何か言われるかも」と支援そのものを避けるようになっていないかを見ます。必要な買い物まで怖くなった、財布を見るだけで緊張する、といった変化は相談してよいことです。
結論が出た日と、気持ちが落ち着く日は同じとは限りません。
管理者も一人で抱え込まず、確認した経過と未解決の課題を整理して相談できる相手を持ちます。職員を支える人が孤立しないことも、無理のない対応を続けるために必要です。
「私は取っていない」と分かっていても、疑われることはつらい。そのつらさを認めた上で、本人の不安も雑に扱わず、事実を一つずつ確かめる。事業所には、その両方を引き受ける姿勢が必要だと思います。
その場の職員だけに、疑いを晴らす役割を背負わせない。 確認する人、説明する人、次の訪問を支える方法まで決めて初めて、「何かあったら相談して」が実際に使える言葉になります。参考資料
資料確認:2026年10月12日。会話・記録・確認表は想定例です。認知症の診断、盗難の有無、法的責任を判断するものではありません。個別の事情に応じて医療職・関係機関・専門家へ相談してください。
