移動支援を引き受けたい。でも、低い単価、支援後の移動、予定変更まで考えると簡単には約束できない。外出を支える事業所が抱える難しさを、人件費と時間の使い方からお話しします。

この記事で確かめたいこと
- 身体介護なしの低い単価に合わせて、人件費まで安くなるわけではない。
- 支援終了後の帰所・次の訪問まで、時間と交通費を見込む。
- 中止・早期終了では、確保した職員の勤務をすぐ別の仕事で埋められない。
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引き受けたい。でも、人を出せば続けられるとは限らない
休日に出かける。好きな場所で過ごす。買い物をして、自分で選ぶ。移動支援があることで実現する外出は、本人の暮らしにとって大切な時間です。事業所としても、その機会を支えたいと思っています。
それでも、相談をいただいてすぐに「大丈夫です」と答えられないことがあります。担当できるヘルパーが見つかるか。その職員の勤務をどう組むか。必要な費用をまかなって、次回も同じように引き受けられるか。支援の必要性を理解することと、継続して人を配置できることの間には、いくつもの確認があります。
僕が特に伝えたいのは、身体介護なしの単価が低くても、かかる人件費まで安くなるわけではないということです。さらに、現地で解散した後の移動、週末の長い依頼のキャンセル、予定より早い終了も重なります。一件の依頼を、利用者さんと一緒にいる時間だけで考えると、この負担が見えなくなります。
この記事では、都内で事業所を運営する立場から感じる難しさを整理します。個別の利用者さんを責める話ではありません。また、移動支援は自治体ごとに扱いが異なります。金額は一つの自治体の例、時間の組み立ては説明用の想定例として分けて示します。
身体介護なしの単価は低くても、人件費は安くならない
ヘルパーにお願いするのは、外出の時間を空けてもらい、その場で必要な支援を担ってもらうことです。身体介護なしだからといって、同じ時間に別の利用者さんを担当できるわけではありません。事業所は、その時間を一人の職員に確保してもらっています。
身体介護あり・なしでサービスの単価に差があっても、職員に支払う賃金や事業所の負担が同じ割合で下がるとは限りません。給与のほかにも、雇用条件に応じた社会保険料などの負担、研修、連絡や記録の時間があります。単価の低い仕事だから、その分だけ職員への支払いを小さくしてよい、とは考えられません。
しかも、「なし」は責任がないという意味ではありません。人混みで本人の様子を確かめる。乗り換えを案内する。予定の変更を伝える。疲れや不安に気づいて、どうするか本人と相談する。直接的な身体介護の有無だけでは表しきれない注意や関わりがあります。
ここで確認したいのは、「いくら残るか」の前に、どこまでを費用に入れているかです。支援中の賃金だけを引けば余裕があるように見えても、前後の移動や調整まで含めると違う結果になることがあります。月給の職員が担当する場合も、追加の支払いが見えにくいだけで、その勤務時間を使っている事実は変わりません。
単価の差を、自治体の公表資料で確かめる
移動支援は地域生活支援事業の一つで、地域の実情に応じた実施が想定されています。都内ならどこでも同じ料金表、同じ利用条件というわけではありません。まずは対象となる自治体の要綱や単価表を確認する必要があります。厚生労働省の事業概要も、この地域ごとの仕組みを知る入口になります。
下の表は、世田谷区の日中帯の通常の単価表から計算した例です。高次脳機能障害者向けの別単価、夜間・早朝・深夜、短時間の加算は含めていません。利用者さんの自己負担額でも、ヘルパーの時給でも、事業所の利益でもありません。
| 支援時間 | 身体介護なし | 身体介護あり |
|---|---|---|
| 1時間 | 2,100円 | 4,300円 |
| 2時間 | 4,200円 | 7,100円 |
| 4時間 | 8,400円 | 10,700円 |
2026年10月11日に世田谷区「移動支援事業」の公表内容を確認しました。表は各時間を算定できる条件がそろった場合の計算例です。実際の請求では、支給決定、対象となる支援、時間の扱いなども確認してください。
この例では、同じ2時間でも総額に2,900円の差があります。職員の人件費までその差に合わせて小さくなるのでなければ、事業所が費用をまかなえる余地も変わります。「身体介護なしを引き受けにくい」という本音には、こうした収入と費用の組み合わせがあります。
ただし、事業所の採算を理由に、身体介護ありへ自由に変えられるわけではありません。区分は本人の状況や自治体の基準、支給決定に沿って扱います。必要な支援と決定内容が合っていないと感じる場合は、具体的な状況を整理して自治体に相談する話になります。
AからBへ、BからCへ。Cで終わっても職員は戻らなければならない
事業所をA地点、利用者さんとの待ち合わせ場所をB地点、外出先の目的地をC地点とします。ヘルパーはAからBへ向かい、Bで支援を開始。利用者さんとCまで移動して、そこで支援を終える予定です。
利用者さんとの支援はCで終わっても、ヘルパーの一日は終わりません。Aの事業所へ戻るのか、別の場所にある次の訪問先へ向かうのか。そのための時間と移動手段が必要です。帰りのバスが少ない、駅まで遠いといった条件も、職員の予定に影響します。
行きに利用者さんと公共交通機関で移動したなら、Cに職員の自転車や車があるとは限りません。B付近に自転車を置いてきた場合は、その回収も必要です。地図上で次の訪問先が近く見えても、移動手段がそこにないため、思うようにはつながらないことがあります。
事業所が確認するのは、BからCまでの道順だけでは足りません。AからBへ向かう時間、Cから戻る経路、次の訪問への到着時刻、必要な運賃まで含めた行程です。場合によっては、その戻りの交通費を事業所が負担します。支援の単価が低いと、この一回分の費用も軽くありません。
また、利用者さんへのサービスとして算定する時間と、職員の労働時間は別に考えます。支援終了後だから、職員の移動をすべて勤務外にできる、ということにはなりません。反対に、帰宅を含む移動すべてが一律に労働時間になるとも限りません。
厚生労働省の訪問介護労働者に関する通知では、業務上必要な移動を命じられ、自由に使える時間ではない場合の扱いが示されています。移動支援での具体的な勤務も、指示や拘束の実態を確かめて整理する必要があります。職員への説明では、支援の請求と給与の計算を混ぜないことが大切です。労働時間等についての通知
「支援2時間」の外側にある費用を見落とさない
ここからは実際の利用記録ではなく、費用を整理するための想定例です。身体介護なしの支援を2時間行い、行きの移動に30分、終了地点からの帰所に45分、記録に15分かかったとします。この例では、移動と記録も事業所の指示による勤務として扱う前提にします。
利用者さんと一緒にいるのは2時間ですが、職員の勤務は合計3時間30分です。先ほどの世田谷区の例を当てはめると、サービス単価の総額は4,200円。そこから、仮に事業所負担の交通費600円が出れば、残る3,600円で3時間30分の人件費やその他の費用をまかなう計算になります。
| 内容 | 想定した時間・費用 |
|---|---|
| AからBへの移動 | 30分 |
| BからCまでの支援 | 2時間 |
| CからAへの帰所 | 45分 |
| 記録 | 15分 |
| 勤務の合計 | 3時間30分 |
| 別途の交通費 | 事業所負担600円と仮定 |
この3,600円は利益ではありません。給与も保険料等の負担も、まだ差し引いていない金額です。特定の賃金水準や平均的な移動時間を示す例でもありません。大切なのは、自分の事業所の実際の時間と費用を入れて計算することです。
職員の勤務表に支援時間しか載っていないと、前後の仕事は見えにくくなります。依頼を検討する段階で、集合への移動、終了後の移動、必要な記録を一緒に書き込む。それだけでも、「空いているように見えた時間」が本当に使えるかを確かめやすくなります。
長ければ長いほど、経営が楽になるとは限らない
長い支援には、一件のために何度も移動しなくて済む面もあります。だから、長時間はすべて不利だと言いたいわけではありません。ただし、売上の総額が増えることと、一時間追加したときに十分な余裕が増えることは別です。
先ほどの身体介護ありの例では、一定の時間を超えた後は、30分追加されるごとの増額が900円です。最初の1時間の金額を、そのまま長時間のすべてに掛ける計算にはなりません。一方、身体介護なしの例では時間に比例して総額が増えても、その一時間を担う人件費との関係は残ります。
長い依頼に一人を配置すると、その職員は同じ時間帯の別の訪問には入れません。土日の昼間に相談が重なれば、必要な経験、本人との相性、勤務できる曜日を踏まえて組むことになります。単に職員数が足りているかではなく、その時間に、その支援を担当できる人がいるかが問題になります。
休憩も予定表に線を引くだけでは確保できません。利用者さんの食事中にも支援や見守りが必要なら、職員が自由に休める時間とは限りません。休憩の確保が必要な行程では、交代や支援方法も事前に検討します。長時間の依頼を「一人に一日お願いすれば済む」と扱わないことが、無理のない配置につながります。
悪天候で中止になったとき、確保した勤務が残る
週末の長めの余暇支援を予定していて、悪天候のため外出が中止になる。安全を考えれば、仕方のない判断です。本人が楽しみにしていた予定がなくなることも、事業所として理解しています。
その一方で、出勤予定だったヘルパーをどうするかという問題が残ります。長い時間を空けてもらっていたからこそ、同じ長さの別の仕事を急に用意するのは難しい。別の利用者さんの予定を、事業所の都合だけで動かすわけにもいきません。対応できる支援内容や移動距離も合う必要があります。
記録の整理や研修など、必要な仕事に切り替えられる日もあるでしょう。しかし、それで予定していたサービスの売上まで戻るわけではありません。毎回十分な代替業務があるとは限らず、週末に誰が指示し、誰が相談を受けるかまで考える必要があります。
利用者さんとのキャンセル料の取り決めと、職員の賃金・休業の扱いは別の問題です。悪天候だから必ず無給にできるとも、どんな場合でも同じ額を支払うとも一律には言えません。雇用契約、確定していた勤務、休業に至った事情などを踏まえて判断します。先に紹介した厚生労働省の通知にも、利用の撤回や時間変更に伴う休業について、代替業務の検討を含めた考え方が示されています。
雨天時の行き先や中止の判断時刻を相談しておくことは役立ちます。ただし、売上を守るために外出を強行したり、本人が望まない別の活動へ誘導したりする話ではありません。予定を変更できる範囲を本人・家族と確かめ、安全に中止できる連絡体制も含めて準備します。
9時〜16時の予定が14時30分に終わると、1時間30分の穴ができる
全部がキャンセルになる場合だけではありません。9時から16時まで移動支援を予定していたのに、14時30分で終了することがあります。本人が疲れた、用事が早く済んだ、行き先の予定が変わった。早く帰る必要があるなら、その判断は尊重する必要があります。
事業所は16時まで職員の時間を確保し、それに合わせて他の依頼や勤務を調整しています。14時30分に終わったと分かってから、残りの1時間30分に新しい訪問を入れられるとは限りません。移動や連絡にも時間がかかり、その場から行ける場所に、ちょうど対応可能な依頼があるとは限らないからです。
この例の9時〜16時は、依頼の予定枠です。全7時間を必ず算定できるという意味ではありません。休憩や支援対象外の時間等の扱いを含め、実際に請求できる時間は自治体のルールに沿って確認します。当初の予定が16時までだったという理由だけで、実施していない支援をそのまま請求することはできません。
もし早く終わった1時間30分が、もともと算定を見込んでいた時間なら、その分の収入の見込みが変わります。一方で、職員の勤務や支払いが同じ幅で消えるとは限りません。ここにも、サービスの実績と人を確保する費用のずれがあります。
帰所や記録に充てられれば、業務として意味のある時間にはできます。それでも、失われたサービスの売上の穴埋めとは別です。「早く帰れてよかった」で終わらず、変更後の勤務指示と実績を整理し、繰り返し起きるなら依頼時の見込み方を見直します。本人の体調に合わせる余地と、事業所が勤務を組むための見通しを、両方持っておきたいところです。
受ける前に、終了後と予定変更まで話しておく
依頼を断らずに続ける方法を考えるなら、単価を確認するだけでは足りません。開始と終了の場所、職員が戻る経路、終了時刻の幅、中止時の連絡を、最初の相談で一緒に確認しておくことが役立ちます。後から条件を足すよりも、予定を組む前に共通の見通しを持つためです。
- 終了場所は固定か。現地解散になった場合、職員はどの経路で次へ移動するか。
- 終了時刻はどの程度前後しそうか。早まると分かった時点で誰に連絡するか。
- 雨天時は中止か、本人が希望する別の行き先があるか。判断はいつ共有するか。
- 職員の交通費など、費用の負担範囲を事前に確認できているか。
- 中止・短縮時の勤務指示を誰が出すか。現場の職員だけに判断を任せていないか。
例えば、終了場所が駅から離れるなら、支援を受けるかどうか決める前に帰路を調べます。別の訪問につなぐ場合は、理想的な乗り継ぎだけでなく、遅れた場合の余裕も見ます。本人に無理な行程を求めるためではなく、職員の次の仕事まで含めて、引き受けられる条件を正確に考えるためです。
予定が早まりやすい依頼なら、「最近の外出ではどのくらいで疲れることが多いですか」「途中で帰る場合はどなたに連絡しましょうか」と聞くこともできます。長い予定を最初から当然とせず、本人が楽しめる時間と実際の利用状況を確かめる。そのうえで、職員の配置も見直します。
費用の説明も、その場でヘルパーに交渉させないことが大切です。制度で扱う費用、契約上の実費、事業所が負担する費用を整理し、必要な説明は管理者等が行います。戻りの交通費が発生するからといって、確認なしで利用者さんに請求してよいことにはなりません。
予定変更を、担当ヘルパーだけで抱えない
現地で早く終了することになったら、職員が自分だけで次の勤務を決めるのではなく、事業所へ状況を伝えられる流れを用意します。伝える項目は、終了した時刻と場所、変更の理由、本人の引き継ぎが済んでいるか、帰所や次の訪問までの見込みです。本人の安全を確認したうえで、管理者等がその後の指示を出します。
連絡がつかないまま、職員が「勤務を減らされるかもしれない」と不安を抱えたり、売上のために終了を引き延ばそうとしたりする状態は避けたいところです。事業所が引き受けた依頼の予定変更は、事業所として扱う課題です。職員が現場で利用者さんと支払いの話をする必要がないよう、相談先を明確にします。
週末の担当者が決まっていなければ、連絡先を決めることから始められます。勤務表にも、支援の予定だけでなく変更時の確認先を添える。大きな仕組みを導入しなくても、まずは判断が一人に集中しない形をつくることができます。
続けられるかどうかは、予定ではなく実績で振り返る
一件だけでは判断しにくいことも、同じ項目を残していくと整理できます。予定した支援時間、実施した時間、前後の移動、事業所負担の交通費、中止や短縮の理由、変更後に職員が行った仕事。この程度からでも、どの場面で見込みと実際がずれているかを話し合いやすくなります。
例えば、移動が想定より長いのか、早期終了が重なっているのか、週末に代替業務を用意しづらいのかで、見直す点は違います。担当者の頑張り不足という話にせず、移動経路、依頼の受け方、勤務の組み方のどこを変えられるかに分けて考えます。
事業所内の工夫では吸収しきれない負担が見えてきたら、実績を整理して自治体や関係者に伝える材料にもなります。「単価が低くて大変」だけでなく、支援2時間に対して必要だった勤務時間や交通費、確保した時間の短縮などを具体的に示す。制度の話と日々の運営の話をつなぐためにも、記録には意味があります。
ただ、数字だけで外出の価値を判断したくはありません。本人が楽しみにしていること、家族以外の人と出かける機会、地域との関わりは、採算表だけでは表せません。だからこそ、職員の善意や事業所の持ち出しだけに頼らず、その支援を続けられる条件を考えたいのです。
移動支援の基本を確認したい方は移動支援とは何かを、担当する仕事のイメージを知りたい方は移動支援で働くリアルもご覧ください。引き受けたい気持ちを実際の支援につなげるには、利用中だけでなく、その前後と予定変更まで含めた仕組みが必要だと感じています。
参考資料・この記事について
制度・単価の確認日:2026年10月11日。現場の論点は、はるへの聞き取りをもとに構成しました。A・B・Cの経路、9時〜16時が14時30分に終了する場面は、聞き取りで挙がった説明例です。時間・交通費を組み合わせた費用計算は編集上の想定で、特定の事業所の実績ではありません。
- 厚生労働省:地域生活支援事業の概要
- 世田谷区:移動支援事業(利用者用)(サービス内容・日中帯の単価表)
- 厚生労働省:訪問介護労働者の法定労働条件の確保について(労働時間・休業の考え方。個別の適用は勤務実態等を確認)
自治体ごとの支給決定・算定条件、契約、勤務実態によって扱いは異なります。個別の請求は自治体窓口へ、賃金や休業の判断は社会保険労務士や労働基準監督署等へ確認してください。
